にこにこおえかきちょう

人生には常にスリルとサスペンスが必要だ。
ドキドキがなくっちゃ、生きてる感覚がどんどん薄れちまう。そう、僕は思う。

居並ぶ方々の顔を見てみろ、どれもこれも穏やかな顔してやがる。平々凡々とそこそこの人生を送ってきて、ちょっとのストレスで疲れきって、平坦な人生を歩みたいなとかなんとか言っちゃうやつらに違いない。

涙流して今までありがとうなんて、白い服着た女がのたまう。僕はそれを白いテーブルの上に並べられた料理を口に運びながら、ぼんやり聞いている。拍手が沸 き起こればそれに倣う。ああなんて平坦な僕！長いものには常に巻かれる。

平々凡々とそこそこの人生を送ってきて、好きだった女の結婚式なんていうちょっとしたストレスで心身ともに疲れきって、ああ、平坦な幸せを掴みたいななんて、勿論このあとの二次会でぼやくつもりだ。

それもこれも、僕の人生にスリルもサスペンスも全く存在しないせい。
でっかいナイフが白いケーキに埋め込まれていくのを遠目に見ながら、僕は心の奥底で盛大に溜息をつく。美人になったよな。あんな男より僕の方が百倍いい男、いや、それは言いすぎだけれど、今すぐこの結婚式をぶち壊して君を攫って逃げるぐらいの甲斐性はある。…ような気がする。

だから僕は大きな声でこう言ってやる。

「みんな逃げろ！！これはウェディングケーキに見せ掛けた爆弾だ！！」


もちろん、妄想の中でだけれど。
ご結婚、おめでとうございます。マイ・ディア・レディ。